宇宙システムの信頼性は「自前主義」なしに確保できるのか

各国は、可能な限り宇宙主権の確立を目指すべきですが、同盟国との足並みを揃える必要もあります
各国は、可能な限り宇宙主権の確立を目指すべきですが、同盟国との足並みを揃える必要もありますImage: Unsplash/Imkara Visuals
  • 宇宙が重要インフラとなるに従い、各国は打上げ、データ、分析などの能力をより大きく自国で管理したいと考えています。しかし、宇宙エコシステムのすべての要素を独力で構築・運用できる国はほとんどありません。

  • 各国は、戦略的に必要な分野において主権的な宇宙能力を維持すると同時に、自国のシステムが同盟国や商業パートナーのシステムと連携できるようにしなければなりません。

  • 分野によって、国家による統制と連携のバランスは異なり、アーキテクチャーや政策の策定には、多様なステークボルダーの参画が求められます。

半世紀以上にわたり、人類は宇宙を新たなフロンティアとして探査、開発してきました。一方で今日、社会が依存する経済インフラとして宇宙が果たす役割の重要性は、一層増大しています。

通信、航法、金融システム、災害対応、国家安全保障は、すでに軌道上の資産に依存しています。衛星ネットワークが拡大し、軌道上データセンターから商業宇宙ステーションに至る新たな宇宙セグメントが経済的に実現可能になるにつれ、この依存関係はさらに深まるでしょう。

多くの国で、国家安全保障と経済的レジリエンスを支える重要な国内インフラとしての宇宙の認識が一層高まっています。このような宇宙に対する見方の変化については、2026年1月にダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会においても、各国政府、産業界、アカデミア、市民社会のリーダーたちによって議論されました。

このような背景のもと、宇宙を戦略的優先事項と位置付ける国々は、宇宙能力を他国に依存することのリスクをますます強く認識。その結果、より多くの国が、国内の研究開発を強化し、独自の宇宙産業を発展させることで、自律的な宇宙能力の構築を目指しています。

宇宙主権のメリットとリスク

主権的な宇宙能力の定義は、各国の優先事項、ニーズ、状況によって異なります。

2026年7月、世界経済フォーラムが一般社団法人SPACETIDE財団の協力を得て東京で開催したハイレベル朝食会では、参加者たちが宇宙主権に関するさまざまなアプローチについて議論しました。

また、スペースエコノミーにおいてどの分野で国際的な依存リスクが最も高くなっているか、そしてリーダーたちが商業的に成立可能かつグローバル競争力のある能力を構築すると同時に、そうしたリスクにどのように対処すべきかについても議論が交わされました。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は、宇宙主権とは軌道への確実なアクセスを含む宇宙活動を自律的に実施し、宇宙の機能やサービスを国家の意思決定に活用できることであると説明。シンガポール国家宇宙庁のニャム・レ・ナ長官は、重要なデータへのアクセスと管理が主権的な宇宙能力の重要な要素であると付け加えました。

国内の宇宙能力を強化するための各国政府の取り組みは、この分野への公的投資、民間投資を促進する助けとなるため、商業宇宙産業の長期的な成長にとって、重要かつ予測可能な基盤となり得ます。

日本の前内閣府宇宙開発戦略推進事務局長、風木淳氏は、日本が宇宙を経済成長の原動力として位置づけていると説明しました。また、安全で持続可能な宇宙利用を支える次世代インフラとして、さらに地域の安全保障を支える自由かつ開かれたインド太平洋の基盤として、宇宙を発展させようとしていると述べました。

一方で、主権的能力の過度な追求は、ここ数年の宇宙セクターの成長を支えてきた重要な傾向、すなわちコスト削減と国際協力に悪影響を及ぼす可能性があります。

地経学研究所の鈴木一人所長は、「宇宙主権の追求は、コストの増大につながる可能性がある」と警告しました。

同様に、シンスペクティブの新井元行CEOも「相互運用性を伴わない宇宙主権は孤立を招く」と述べています。同氏は、主権的な宇宙能力に過度に重点を置くことで、特に危機発生時など、多くの国が単独で必要なすべての情報やサービスを提供できない状況において、集団的対応が阻害されるリスクを強調しました。

必要なのは領域をまたぐ「システム・オブ・システムズ」アプローチ

宇宙セクターは、これらの課題にどのように取り組まなければならないでしょうか。英国宇宙庁のレベッカ・エバーンデン長官は、「宇宙主権という課題に対処するには、『システム・オブ・システムズ』アプローチが不可欠です」と指摘しました。

このアプローチでは、レジリエンスを確保するために、すべての国が宇宙バリューチェーンの全レイヤーを保有・運用する必要はないと考えます。その代わりに、独立して統治される各システムが、主要なステークホルダー間で、組織や国家の境界を越えて連携できなければなりません。

これを実現するには、宇宙業界のアーキテクチャーに以下の重要な要素を含める必要があります。

  • ·各国が維持すべき主権的能力。

  • システムの独立性と相互運用性。

  • 情報共有や連携のための共通の運用ルールおよび国際基準。

  • このアーキテクチャーを実現するために必要な技術革新と人材育成。

宇宙の各分野では課題が異なるため、こうしたアーキテクチャーは分野ごとに議論し、構築していくことが重要です。

人工衛星はその一例です。衛星インフラの拡大に伴って豊富になるデータを活用し、特に国家安全保障、災害対応、気候モニタリング、インフラ管理、経済的レジリエンスなどの幅広い国家的優先課題に対し、より実践的かつエビデンスに基づいた情報を提供することが可能となりました。

同時に、AIを活用した分析により、データから洞察を導き出す能力も向上しています。この分野において、各国は当然ながら重要データへの独自のアクセスを維持しようとしますが、同盟国や志を同じくする国々との連携も不可欠です。

その結果、各国が自国のデータとAI分析能力を維持しながら、そこから得られた洞察を共有・活用し、国境を越えた統合を進め、共通のオペレーショナル・ピクチャーを構築する新たなアーキテクチャーが生まれつつあります。

米国地理空間インテリジェンス財団のロンダ・シュレンクCEOは、特定の状況下では主権に基づく能力が必要となる場合もあるが、主権が不必要かつ非効率的なデータのサイロ化を招かないことが重要であると述べ、こうしたデータ共有の重要性を強調しました。

また、宇宙状況認識(SSA)の分野では、ディガンタラのアニルード・シャルマCEOが、宇宙物体の信頼性の高いカタログを維持することの国家安全保障上の重要性と、より広範な協力の必要性を強調しています。

月周回領域については、アイスペースの袴田武史CEOが、持続可能な月面活動は資産と運用の相互接続に対する依存が増していくため、月面システムの断片化や互換性の欠如を回避するためには、共通のインターフェースと運用原則の確立が極めて重要であると強調しました。

商業宇宙ステーションには、また別の課題があります。この取り組みは主に米国企業によって主導されており、米国主導のプラットフォームを通じて低軌道プラットフォームへのアクセスを求める国々は、米国の要件、輸出規制、技術基準の影響を受けることになるからです。

マルチステークホルダーの対話を通じた未来の形成

すべての国が、自国だけで宇宙能力の全範囲を構築できるわけではありません。データへのオープンなアクセス、官民連携、相互運用可能な国家システムは、宇宙分野の持続可能な発展にすでに不可欠なものです。

これらを実現するには、国家安全保障や経済的レジリエンスの優先事項が、各国が求める主権や自律性の種類や程度に与える影響をより明確に評価する必要があります。この評価は、衛星サービス、打ち上げ、宇宙状況認識、月周回活動といった宇宙セクターの分野ごとに行う必要があるでしょう。

ステークホルダーは、各国のレジリエンスを強化しつつ、国際的な協力を可能にする相互運用可能なアーキテクチャの実現に向けて取り組まなければなりません。

各国政府、産業界、投資家の間で継続的な対話を行い、戦略的自律性、商業的競争力、長期的な持続可能性の適切なバランスを保つ政策および投資の枠組みを構築してこそ、未来のスペースエコノミーを実現することができるでしょう。

License and Republishing
World Economic Forum articles may be republished in accordance with the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International Public License, and in accordance with our Terms of Use. The views expressed in this article are those of the author alone and not the World Economic Forum.